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TOP Marketer Interviewsトップマーケターインタビュー

トップマーケターのインタビューをご紹介します。

元P&G、元シャルレ代表取締役社長 岡本雅文氏インタビュー「マーケティングとは、新たな常識や習慣を創ることである」

 岡本雅文様

はじめに

新卒でP&Gに入社されプロダクトマーケティングの第一線で活躍された後、複数の日系企業で事業計画、経営改革に取り組み、業績を伸ばしてきた岡本氏。マーケティングは経営に近いと言われることもありますが、実際に両方を経験した同氏はマーケティングについてどのように考えるのか、伺いました。

[目次]


  • 「自分のしていることは消費者のためになっているのか」を常に問い続ける




  • マーケティングとは、「新たな常識や習慣を創ること」である




  • マーケティング=経営ではない




  • マーケティングの難しさ




  • 戦略の成否を分けるものとは




  • キャリアを考えるうえでのアドバイス





「自分のしていることは消費者のためになっているのか」を常に問い続ける

―岡本さんはマーケティングと経営、どちらの経験も豊富かと思います。今までのご経歴について、教えてください。

私は新卒でP&Gに入社しました。まず洗濯用洗剤の事業部で商品の企画開発、所謂マーケティング周りを12年程担当しました。洗濯用洗剤をメインで扱っていましたが、液体洗剤のプロジェクトリーダーや、ファブリーズブランドを担当していた時期もあります。
その後、女性用下着を扱う株式会社シャルレに入社し、化粧品の新規事業企画をゼロからスタートさせました。そこで子会社の社長を経て、同社の社長に就任し、低迷していた業績を3年で立て直しました。その後も複数の日系企業の経営を担い、今は複数社の顧問をしています。
まとめると、約30年間のサラリーマン人生の中で、前半はマーケターとして商品企画開発を行ない、後半は経営者として企業の業績回復に尽力してきました。

―P&Gでは具体的にはどういうことをなさっていたんですか?

主に、プロダクトマーケティングですね。商品開発においては、容器・中身・香料など様々な専門分野を持つ研究開発部署が関わってきます。生活者のニーズに合った商品を創ってもらうために、それらの部署をまとめてリードし、指示を出していました。私自身が理系卒だったので、研究開発部署との意思疎通も共通言語をもって行えたと思っています。
誤解を恐れず言うと、今世の中で注目されているP&G出身者は、セールスマーケティングをしていた人が多いように思います。
4Pでの役割で言うと、プロダクトはプロダクトマーケティング、プライス・プロモーション・プレイスはセールスマーケティングという感じです。どちらかというと、マーケティングの上流を担っていたイメージでしょうか。
サンプリングや店頭の販促物等について私は担当外でしたが、ブランド戦略からコンセプト開発、そして、テレビ広告などへと流れていくわけですが、商品の何を提供価値にすべきか、その表示方法や効果の言い方などにも注意が必要ですから、広告代理店とのオリエンテーションから全て関わっていました。
例えば、商品の効果を不当に表示してしまう景品表示法の問題。セールスマーケティング側は、打ち出せば売れるというメッセージは言ってしまいたいものですが、研究開発側は根拠のないことは言いたくない。その中間の立場で最適な状態に持っていくことも、プロダクトマーケティングの仕事です。テクニカルブランドマネージャーと呼ばれていた時代もあります。

―日々の業務ではどのようなことを心掛けていたのでしょうか?

大事にしていたのは「自分のしていることは消費者のためになっているのか」を常に問い続けるということです。当たり前ですが、上司の顔色をうかがうような仕事は絶対にしませんでした。社内の関係者の顔色など、そんなのは所詮狭い世界の話で枝葉の話にすぎません。もっと重要な部分、「消費者のための仕事」という幹を太くする努力を積まなければいけません。
その一方で、「消費者は最も怖い存在」だと認識していました。特に日本の消費者は世界一怖い。社内で「これくらいでいいだろう」と見送ったことも、消費者は絶対に見逃してくれません。そのような小さな妥協が、マーケティングの川上から川下にいくにつれて、結果的にとても大きな問題になってしまうことがあります。部下の「これくらいいいだろ」という仕事を見つけたときは、データなど根拠に基づいてその仕事が間違っていることを伝えたり、「自身のためにならないよ」と精神論で伝えたりして、チーム全体にも徹底させていました。

マーケティングとは、「新たな常識や習慣を創ること」である

―岡本さんは、今までのご経験からマーケティングとは何だと定義されますか?

難しい質問ですが、マーケティングとは「新たな常識や習慣を創ること」だと言えると思います。主に消費者の常識や習慣をクリエイトするということ、そして時には業界の常識をうちやぶるということですね。それがマーケティングの醍醐味でもあると思っています。

例えば、昔は洗剤といえば粉末洗剤でした。しかし、初の液体洗剤ジェルウォッシュが出てからは、何十年と続いた粉末洗剤の地位は液体洗剤へと完全にシフトしました。そして今は、ジェルボールという新しい価値提案にシフトしていますよね。
別の例で言うと、昔花王の「ハミング」という柔軟剤が非常に好調だった時、消費者は柔軟仕上げをすることを「ハミングする」と言っていました。柔軟剤を使うということが「ハミングする」という一つの商品と結びついた言葉になっていることが、消費者へのインタビューを通してわかったんです。ここまでいくと本当にすごいですよね。
ファブリーズも最初は全く売れていませんでしたが、「除菌をする」という価値をうちだしてから売れるようになりました。ファブリーズも「ファブる」という言葉が使われるようになりましたが、ここまで来たかと、嬉しかったですね。
このように、商品としての土台である開発工程や品質上問題がない等ということは前提として必要ですが、新しい常識とか習慣につながるモノ、つまり今までになかった価値を世に提供していくモノ/コトを創るということがマーケティングだとも言えると思います。

マーケティング=経営ではない

―「マーケターには経営目線が必要」だと言われることもあります。これについてはどう思われますか?

このように言われるのは、マーケティングが会社の売り上げに影響するからでしょう。ただ、私自身はマーケティングこそが経営だとは思っていません。それは言い過ぎかなと思いますね。経営にはもっとたくさんやることがあるので。
確かに、事業フェーズによって多少変わるものの、経営戦略のうちマーケティング戦略が関与しているウェイトは大きいです。マーケティング戦略は経営戦略に沿ったものでなければいけませんし、経営戦略の方針転換でマーケティング戦略も変えざるを得なくなるかもしれません。
そういう意味で、マーケターは商品のことや売れる仕掛け・仕組み作りだけでなく、経営について理解する・考える必要があるということではないでしょうか。

―P&Gでのマーケティング経験は、経営にも活きていると思いますか?

P&G時代の経験は、その後の経営者としてのキャリアに活きたと思います。シャルレで社長をしていた時、それまでにない健康を意識した下着の商品開発を行い、ヒットさせました。そのような経営方針を決めるにあたっては、マーケター時代に培った攻めの姿勢と顧客第一主義のマインドを大事にしていました。
ただ、それがマーケティングをしていたからなのか、P&Gという会社を経験したからなのかは、少し怪しいですね。

マーケティングの難しさ

―マーケティングの難しさはどのようなところにあると思いますか?

マーケティングとは新たな常識や習慣を創ることだと言いましたが、そのような商品は簡単には生まれないんですよね。
そのような商品を生み出すためには、やはり常に消費者の立場になって考えるということ、小さなことでも自分軸で判断せず「消費者にとってどうか」で考えることが重要です。
トレンドの調査を定期的に行い、業界トレンドの「ちょっとした変化」に気づいて、新たな企画立案ができるか、ということも重要です。「ちょっとした変化」が現れた時点で気づけないと、時の流れとともに「誰もが認識出来る変化」になってしまってからでは、手遅れです。目の前の仕事に没入してしまっていると、マクロの変化に気づきにくいものです。こういうことは、俯瞰して物事をみる機会を持たないと気づけません。
世の中の商品企画をする人達は、自分達が次の世の中を創るんだという気概を持って、新たな技術的背景を持って、どんどん新たな提案を世の中に投げかけて欲しいと思います。マーケット・インの発想が重要になってきている等と声高に言われていますが、私は、ほとんどの場合、逆にプロダクト・アウト発想から世の中をアッと驚かせるモノやコトが出てくると思っています(世の中をアッと驚かせたり、世の中を変えるようなモノ・コトでなければ、マーケット・イン発想でアイデアが出てくる可能性はあります。)。ただ、それらのアイデアを消費者目線で客観的に、かつ緻密に評価・吟味し、妥協のないモノ・コトに仕上げて世の中に出していくことを忘れないことが重要です。

戦略の成否を分けるものとは

マーケティングだからというわけではないですが、実行すること、やりぬくこと、胆力といったことも非常に大切です。
マーケティング戦略も事業・経営戦略も、実は立案者や会社による質の違いはあまりないように思います。それなのに他社に負けてしまったり、計画が頓挫してしまったりすることがあります。
これは、急な会社の方針転換であったり社内での新たなチャレンジに対する抵抗や反発であったり、自部署の問題とも言い切れない要因によるものかもしれません。
しかし、そういった時でも、リーダーが何があろうがやりぬく覚悟と執念が大事なんだと思います。

キャリアを考えるうえでのアドバイス

―岡本さんから、マーケターへのアドバイスはありますか?

まず、これからマーケターになりたい人向けに話すと、とにかくその人のキャリアの最初だろうが後だろうが、マーケティングで有名な企業で働いた方がいいですよ。そっちの方がちゃんとマーケティングを学べますからね。
あと、特定分野の手法についてのみ細部まで没頭するのは、マーケターとしてはあまり良くないかもしれません。マーケティング全体を経験しないと。例えば、デジタルマーケティングはあくまでマーケティングの一手段です。最新のデジタルマーケティングに没頭している人は、デジタルマーケティングを極めるのに必死です。手段が目的化されてしまっているマーケターも多くいるのではないでしょうか。
マーケティングを一通り経験したあとは、経営の世界を目指してもいいかもしれません。1社でも多くの企業、1人でも多くの方にマーケティングマインドをもってもらい、世の中を変えていってほしいと思っています。


Profile

大阪府立大学大学院修了後、1989年P&G入社。プロダクトマーケティングに従事。2001年株式会社シャルレ入社。​新規事業部長、執行役を歴任。2008年同社代表取締役社長就任。​その後、複数の日系企業の代表取締役社長、取締役副社長などを歴任。2021年当社顧問に就任。

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